ネズミを使った実験で、固形のエサを与えた場合と粉のエサを与えた場合で脳の発達に影響があるかどうかを調べたものがあります。その結果、固形のエサを食べた動物の方が、つまりよく噛んで育ったネズミの方が脳の発達はよいという結果が出ました。
この動物実験の結果、よく噛まずに育ったネズミは、なぜ発達が悪かったのかという点について調べてみると、次のようなことが明らかとなりました。
①よく噛むと脳細胞の活動が盛んになり、脳の血液循環もよくなって脳の温度が上昇すること。
②脳細胞を顕微鏡で調べると、よく噛んだネズミの脳は発達が早いこと。
③脳の中に含まれている記憶に関係する物質の量も幾分多いこと。
などが分かりました。
それでは人間ではどうでしょうか。人の脳は、生まれたばかりの赤ん坊では約400グラムであり、これは大人の脳の3分の1くらいの重さです。その後脳はどんどん大きくなって生後6か月で出生時の約2倍になり、4~6歳で大人の脳の重さの95%に達します。そして10歳を過ぎると、もう大人の脳とはほとんと同じになります。ですから生まれてから10歳くらいまでの時間が、脳の発達にとって一番大切な時期なのです。
頭の良し悪しは遺伝か環境かというのはみなさんも関心が深い問題だと思います。どんな脳細胞をどれだけ作るかは、遺伝子の中に組み込まれたプログラムによって決定されますが、その脳細胞をどれだけ残し、どのようにつなげるか、すなわちよく働くようにするかは外部からの刺激、すなわち環境によって決定されるのです。ですから、幼児期の環境は極めて大切なわけです。
幼稚園児の咀嚼と知能の関係について行われた実験によると、噛む力(咬合力)と幾何図形テストの結果にある程度の相関がみられました。
この結果から、噛む力の強い子どもは点数も高いという傾向がうかがえます。しかし、知能指数と噛む力、あるいは咀嚼能力との間に相関関係はありませんでした。この実験の結果のみから、噛む能力の高い子どもの方が頭がよいと結論するのはまだ早いと思いますが、人の場合でも噛むということが脳の発達とある程度関わっているのではないかということは言えると思います。
児童・生徒期は脳がどんどん発達していく大切な時期です。脳の発達によって重要な刺激が少しでも多く加えられるように、噛むということを積極的に行って下さい。そのためには、硬いものを嫌がらずに食べること、ふだんの食事の時によく噛む習慣をつけることなどを心がけてほしいものです。
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